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(南雲が転校してくる少し前、とある病室内での小話)
「母さん、元気? 僕はまずまずかな。
あぁ、でも咳はちょっと減ったよ。この分なら、またすぐ剣道始められると思う。
…僕ね、転校するんだ。鴻上って学校。
全寮制だから、あんまり帰って来れなくなっちゃうかも。 あ、でも手紙送るから。
山奥の学校だから、…空気がね、綺麗なんだって。きっと少しは身体が楽になるだろう、って。
そしたら、また剣道に集中出来るようになるよね。 次こそは、全国優勝を目指すつもり。
……、 … ――、 ―――……、
…、 ねえ、母さん。
もし、 もし、さ。 もし、元気になったら、 文化祭とか、さ。
遊びに来て、 …くれ ――― 」
「 ―総雅くん、そろそろ、」
「、…うん、今行く」
薄暗い部屋の中、僕はベッドに横たえる青白い顔で眠る母を見た。顔色こそ悪いけど、その表情は至って穏やかで。ほっと安堵して、同時に少しだけ寂しくなった。最後に母さんの笑顔を見たのは何時だろう。最後に声を聞いたのは何時だろう。最後に撫でてくれたのは、何時だろう。扉から僅かに漏れる光は、僕を呼ぶ看護師の真田さんの顔に影を作った。それでも、真田さんが少しでも早く僕を部屋から出したいのだろう気持ちは伝わってきて思わず笑ってしまった。静かに眠る母さんの枕元に、折鶴にした手紙を添える。
「 ―行ってくるね、母さん」
最後に言いそびれた言葉。今思うと、言わなくて良かったと思う。だってそれは敵わないと分かっていたから。敵わないことを願うなんて虚しいこと、嫌いだし。
手招きされるままに部屋を出る。きっとあと数十分もしたら母さんは目を覚ますのだろう。そして父の名を呼んでは泣き喚いて、僕を探すように手探りを繰り返して。泣いて泣いて、そしてまた疲れて眠るのだろう。手紙、読んで貰えるかな。手紙って気付かれなくて破られちゃったら寂しいなぁ。想像して少しだけ涙が出そうになったけど、その前に足元に幾つかの衝撃。続いて甲高い子供のいくつかの声。
「そぉが!そぉが!めんかい、おわった? ならあそぼ!」
「今日はね、おままごとがしたい!わたしがおひめさま!」
「そんなのやだよ!ヒーローごっこがいい!」
「ならお姫様を助けるヒーローごっこをしようか。僕が悪者だよ?ほぉら、お姫様を救ってごらん!」
「きゃあ!」
「あーっ!そぉがひきょーだっ!」
「まてえ!」
真田さんが目の前にいるというのに、子供達に混ざって遊び始める。楽しいなぁ。さっきちょっと泣きそうになったのが嘘みたいだ。あは、真田さんってば呆れながら笑ってる。こんな毎日とも、僕が鴻上に行っちゃったら暫くお別れだ。それはそれで、とても寂しいものがあるなぁ。鴻上では、一体どんなことがあるんだろう。楽しいこと、あるかなぁ。悲しいことも少しはあるんだろうなぁ。予想が全然つかないや。
ああでも、そうだなぁ。強いて贅沢を言うなら、どうか明日も、
明日も笑顔で在れたらいい
(ねえ、神様)
(僕の願いなんてそれぐらいなんだからさ、)
(これぐらい叶えてくれたっていいじゃない)
――
南雲が転校して来る前、通院している病院での一幕。
南雲は大きめの病院の呼吸器科に、南雲母は精神科にそれぞれお世話になっている。
総雅は幼少時からお世話になっているけど、入退院が増えたのは高1での剣道の大会以来。
剣道を初めてからは大会まで薬を貰ったり通院自体は定期的にしてたけど入院なんてしなかった。
南雲母は元々、恋人(=南雲父)に捨てられてから精神的に異常を来していたけど、
献身的に支えていた祖母が亡くなったのを境目に完全に異常になってしまった。
そして総雅が成長していくにつれて、段々総雅に恋人の面影を見出し始めてしまう。
母の元の性格上直接手を上げることはしないけど、泣いて喚いて手当たり次第に物を投げ付けて。
以来母はずっと入院。それが総雅が施設に行くことになった理由。10歳ぐらいの頃。
母の時計は総雅が10歳頃で止まっている。でも決して総雅への愛情が薄れたわけでもなくて。
寧ろ、時折置いてある手紙をいつも心待ちにしている。錯乱している時は破いちゃうけど。
それが総雅が母からきっぱり離れられない理由。真っ直ぐな愛情を向けてくれていることを知っているから。
だから総雅は、それこそ母が錯乱してしまう程に父にそっくりな自分の外見が嫌いでしょうがない。
総雅がいつも笑顔でいる、いようとする理由の小話もいつか書ければ良いなぁ、とか。
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