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ゆめを見るユメを視る

某掲示板サイトでの我が家の阿呆共のどーでもいいお話。

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主人公になれない少女の独白




単純ゆえの複雑構造

 

(とある大きなダンスコンテストに出場している呼雪のお話。
 呼雪はダンスに関することに限ってはとてもシビアな人になるんです。まるで別人のように)


とても近い、でもとてつもなく遠いような距離から歓声と拍手が鳴り響く。

その音と入れ違うように、静かに、でも息を切らせて汗をダラダラと流して戻ってくる男の人。知ってる、前回の優勝者だ。満足げなその顔は、雑誌で見た時よりも酷く若々しく見えた。やり切った、と言わんばかりの笑顔。そして彼の胸元辺りに位置してる僕のことをチラリと見て、笑った。それがどんな含みを持たせているかは知らない。興味がない。

毎月購読しているダンス専門雑誌。毎月毎月、一字一句逃すことなく這うように眺めているその雑誌に書かれていたこの男の人のことを、僕はファンの人と遜色ない程に知っていた。僕の3個上で、母子家庭、裕福とはとてもいえない少年時代、ダンスとの偶然の出会い、母の反対、周囲の嫉妬、それから出会う恩師、突然のライバルの消失、陥るスランプ、結果的に恵まれた体格、そして至る今の“天才ダンサー”という栄華。

(まるでマンガの主人公みたいだ)

ごろりとベッドに横たわって雑誌を読んでいた僕は、漠然とそう思った。この人を主人公に1つの連載が出来てしまうのではないかと思った。
波乱万丈、と言って差し支えはないと思う。一緒に載ってた1日のスケジュールの半分以上はダンスって書かれていて、そこだけは羨ましいとも思った。一端の高校生である僕は、どうしてもそればかりは実現できない。土日は別としても、僕と比べれば絶対量がまるで違うのが見るだけで分かった。
僕は自分のダンスを練る時に数多くあるダンスコンテストの映像を片っ端から見る。当然だけど優勝者はクオリティが高い。でもそれは優勝者だけに限らない。決勝ステージまで登ってきた人は各々クオリティが抜群にある。そのハイクオリティの塊で何が僅差を生むのか。僕はそれは“天性の才能”だって思ってる。優勝者と準優勝者では、確実に才能の差が出ていると僕は見て思う。この考えはダンスを始めた頃からそうだった。多分これからも変わることは無いと思う。いるんだ、大した練習をしなくても質の高いダンスが出来てしまう人が。どんなにどんなに練習しても、絶対に埋められない才能の差があることを、身をもって知っていた。

ならその天性の才能を持つ人が並んでいる時はどうなのか。僕はそこで初めて練習量の差が出るんじゃないのかと考えてる。

(才能があって時間もあり余ってるなんて羨ましいや)

雑誌の内容を思い出しているうちに、その男の人はもう控え室に戻っていた。改めて思う。僕とは色々と逆な人だった、と。
周囲よりは幾分と裕福な家庭だし、理解のある両親もいるし兄も姉も惜しみなく協力してくれる。ダンスで筋を通そうとする僕に反対する人もいない。独学だから恩師なんていないし、これといったライバルもいなければ今の所スランプは無経験。身体もダンサーにしては小柄だと思う。
強いて共通点を挙げるなら周囲の嫉妬を受けた事がある点と、それなりに(小・中学生の部だけど)大きな大会で優勝したことがあることぐらい。才能は…、どうなんだろう。自意識過剰な自覚はあるけど、その辺の人よりは有るんじゃないかなって思ってる。あると良いな。

(…思えば思う程、僕っていやなやつかも)

まんがの世界なら、ほぼ確実に敵役で出てきそうな境遇だ。で、自信満々に主人公の前に立ち塞がって、ギリギリまで追い詰めて、でも最終的には負けちゃう。そんな噛ませ犬とも思えるキャラクターって、大体こんな感じだよね。皮肉なぐらいに恵まれている人は、天性の才能を持ってる主人公に負けちゃう宿命だ。その点主人公って羨ましい、だって何度か負けても最終的には必ず勝って終わるんだから。

遠く近い距離からでも、段々と歓声や拍手が鳴り止んでいくのが分かった。そしてほんの一瞬だけ訪れる静けさ。僕はこれがたまらなく好きで、たまらなく嫌い。高揚と緊張が同時に訪れて気持ちが悪い。でもそれが気持ちよいとも思う。もうよく分かんないや。

“続いてエントリーナンバー38番!砂原呼雪!曲は――、”

周りは言う。僕はとても恵まれた環境下でダンスを出来ているって。僕はそれを否定しないし、寧ろありがたいとすら思っている。でも実はそれが物凄くプレッシャーであることも、知ってる。僕は負けられない。負けたら僕にダンス面で尽くしてくれている家族に示しがつかない。そして周りの人間は言うんだ。負けた僕に何の悪気も無く言うんだ。“お前は恵まれているのに何で結果に出せないんだ”って。僕はそれが、たまらなく怖い。

(僕はうそつきだ)

普段からダンスは楽しければ良いって言ってるのは、僕なのに。いざこうやって“評価される場所”にやってくると途端にそれを忘れてしまいそうになる。結果が全てじゃない。楽しんでこそダンスの真価だ。分かってる。分かってるんだ。でも、でもやっぱり負けるわけにはいかない。だって僕は“恵まれている”から。

(だから僕は、負けるわけにはいかない。―魅せなければ、いけない。

 ――ここはマンガの世界じゃないんだから、主人公もどきに勝たせるわけがないでしょ?)

本当はさっきすれ違ったときに僕に見せた笑みの意味を、僕は分かっていた。あれは紛れもない嘲笑。僕のことをどう捉えたかは知らないけど、格下だって思ったんだろうね。でも僕も同時に思った。“僕よりもヘタくそだ”って。負けるわけにいかない。“恵まれない環境”に育った人に、僕は負けるわけにはいかないんだ。

強く念じ込ませて、1つ深呼吸。息を飲み込んで、僕はとびっきりの笑顔を浮かべてステージへと踏み出した。




恵まれた脇役少女の葛藤



(ステージの真ん中で貰ったトロフィー)
(隣ではさっきの男の人が苦々しそうな表情を浮かべてる)
(僕は思いっきり飛び跳ねながらトロフィーを掲げてやった)

(ざまあみろ主人公!)



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