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「貴方がどうか幸せでありますように」
(香涼の髪切り話。美容院でつらつら己染への未練を独白してるだけ。
男前と女々しさは二律背反。実は裏でこんなことを思っていたんです。
以降新規絡みの際、香涼の髪型は金髪スイートボブヘアになります)
貴方は私のことを潔いだとか、意志が固いだとか言ってくれるけれど。本当の私は貴方が思っているよりずっと女々しくて、ずっと弱い意気地なしだと知ったら貴方はどう思いますか?
“いらっしゃいませー、あら香涼ちゃん!”
“こんにちは”
“さぁ、こっちへ座って。今日はどうする?いつもみたいにカラーリングして軽く揃える?”
“いや、今日はカットメインでお願いしたいんです”
“え?”
何時から貴方が好きだったか、なんてはっきりと覚えていません。ただ1つはっきりわかるのは、物心ついた頃から貴方は私にとって将来結婚する男の人で、ただそれだけだったのです。今思うと少しばかりの洗脳のようなものもあったのかもしれません。貴方を好きになるように仕向けようとした、周囲の大人たちの。
“カット…、どれくらい切れば良いのかしら?”
“もう、ばっさり行ってほしいというか!肩につくかつかないかぐらいで!”
“そ、そんなに行っちゃっていいの!?”
最初は洗脳に似た植え付けから始まったものかもしれません。しかし、貴方と出会って確かに私の世界は色の付き方を変えたのです。はきはきとした色合いばかりだった私の世界に、暖かく水彩画のように優しい滲みを与えてくれたのは間違いなく貴方なのです。そしてそれは、ずっと続いていく世界なのだと思っていたのです。しかしきっとそれは、私だけだったのだと知ったのは16歳の秋のことでした。私に新しい世界を貴方が与えてくれたように、貴方に新しい世界を与えた存在が現れたと気付くのはとても容易いことでした。だって、ずっと貴方のことを見ていたのだから。
“折角香涼ちゃん綺麗な髪なのに…、本当に良いの?”
“えぇんです!お願いしますっ”
貴方を取られてしまう。直感でそう思ったのに、それでも正直、私は何もできませんでした。だって貴方のあんなに幸せそうな顔を初めて見たから。彼と一緒にいる貴方は、まるでそこにいるのが当たり前で、何より一番の幸せのように笑うから。私には武器があったはずなのに。貴方の『婚約者』だという武器が、『女性』という武器が。なのに彼の前では、そんな武器は武器とすら呼べない、まるで紙切れの如く容易く切り倒されていくような錯覚に陥りました。しかし私が一番悔しかったのは、貴方の世界に新しい色が散りばめられたことを嬉しく思ってしまったことなのです。
強引に彼に立ち塞がることが出来なかった。貴方の顔を引っ掴んで強引に私へ向かせることが出来なかった。見つめてばかりで、実際私が動くことが出来た回数はきっと両手に満たないことでしょう。貴方に嫌われたくなかった。貴方が幸せならそれで良かった。そう思って逃げ道を選び続けた私に、貴方が彼の手を取ることを見せつけることは容易だったと思います。
`こそめ、'
`うん? どうしたの、スズちゃん'
`うち、うちな、'
`?'
`こそめのこと、ずっとずっと好きだったんやで'
周りから見れば、きっとけじめだと思うでしょう。玉砕覚悟、と書けば悪くない響きに聞こえるでしょう。
でも違うのです。私は自分で終わらせる勇気が無かっただけなんです。貴方に嫌われたくないと思っているくせに、自分から変わるのが怖かった。私はそんな矛盾を抱えて生きていたなんて、きっと貴方は知らないだろうけれど。
`…ごめんなさい、スズちゃん'
`「僕」は好きな人がいるから、ごめんなさい'
`…でも、これは「僕」の勝手なわがままだけど、'
`これからも「僕」のお姉さんとして、近くにいてくれると嬉しいです'
あの時。自分を隠しに隠している貴方が私に本当に貴方で接してくれた最初で最後の時。
髪を、切りたくなりました。貴方への思いを刻んだ髪を切りたくなったのです。しかし私はすぐにそれを出来ませんでした。口では、失恋してすぐに髪を切ったら貴方が気にしてしまうかもしれないから。でも本当は、もう少しだけ貴方を好きな私でいたかったから。変わりたくなかった、から。
私は存外、貴方を好きな私が嫌いではなかったのです。だってそうして16年間生きてきたのだから。
“…じゃぁ、いくわよ?”
“はいっ”
でも、もう、流石におしまいにしようと思います。何が私に踏ん切りをつけさせたのか、私にも分からないけど。ちょうど貴方に失恋して1年経った今頃になって。不意に、髪を切ろうと思ったのです。不思議なことに、貴方に失恋してから少しだけ私の世界は拡がったように思います。金色の似合う先輩たちに憧れを持つようになりました。大阪に帰る機会も増えました。同級生とくだらない口論をすることも増えました。そんな日々が、衝動的にたまらなく愛おしいと思う日が出来ました。変わりたい、と。思うことが増えました。
“――どう、かしら”
“………”
“…香涼ちゃん?”
“…っははっ!頭、どえらい軽く感じますっ”
意気地なしで、女々しい私は1年経って漸く貴方が与えてくれた以外の色に気付くことが出来ました。きっとこれから私は、貴方以上に大好きな人を見つけて、貴方以上に幸せになると思います。だけど、これだけは覚えていて欲しいです。
私は誰よりも貴方の幸せを願っているのだと。
(だって、私の世界の始まりは貴方だった事実は消えないのだから!)
(軽くなった頭で考えた)
(私は意気地なしで女々しいけれど)
(切り捨てた髪と一緒に、少しはそれをそぎ落とせたんじゃないかなぁ)
(なぁんて)
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