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俺は人が嫌いだ。叶うなら一生部屋に閉じこもって誰とも会わずに生きていきたい―筈だったのに、お節介共を数人招き込んでしまっている事実に一番慄いているのは俺だと先に言っておく。 ……話が逸れた。繰り返しになるけど、俺は人が嫌いだ。五月蠅くて喧しい。だからこそ、だろうか。
俺はよく人を見てしまう性質だった。笑風なんかはそれは良いことだ、なんて嬉しそうに笑うけど俺からしたら悪癖でしかない。見てしまったら、分かってしまうだろう。俺は分かりたくなんてない。知りたくない。知ってしまうことは面倒くさい。知らぬが仏、なんて諺があるくらいだぞ。
「―水樹、生存確認しに来た…って。相変わらず部屋暗過ぎ!んな所でパソコンしたら目悪くなるっていっつも言ってんでしょーて、」
「………五月蠅い黙れさっさと帰れ」
「はいはい」
俺の暴言を適当に流してずかずか入ってくる数少ないお節介―新名はぱちんと部屋の電気をつけた。何が縁になったのかは俺自身よく分からない。いつの間にかコイツは俺の部屋に来ることが増えて、いつの間にかお節介を焼いてくるようになった。笑風と…、あと、“アイツ”も交えて4人で集まることだって少なくない。
それでも、俺と新名の縁が深くなったのは高校を卒業してからだった。高校にいた時の俺にとって、新名は“避けたいが為によく見てしまう対象”の中にいた。何せコイツは良くも悪くもよく目立つ。だから、高校の時から新名のことは“何も知らないけどよく知っていた”。そして俺がよく見てしまうこの癖を悪癖へと変質させたのも、紛れもなく新名だった。
(―……お前は、“アイツ”が好きだったんだろ)
(……でも、“アイツ”は本当はえみが好きで)
(そのえみは、今お前と付き合っていて、今はお前もえみが好きで)
俺は、“アイツ”と新名の関係をよく知っている訳ではない。二人に何があったなんて知らないし興味もない、けど。
「水樹?、相変わらず目つき悪いにー。そんな見詰められたら照れちゃうよーて」
「気持ち悪い」
お前は、俺が憎たらしくないのか。
あくまでえみを見るレンズだったとしても、それでも“アイツ”が好いてた俺を。
お前は、知ってるのか。
(“アイツ”が、えみに恋していたことを)
( 水樹と新名くん / Dear 蜜樹ちゃん )
□□□
「……んだこりゃ、」
とある休日、寮の自室で課題と睨めっこしていた光來の視線を逸らしたのは携帯の振動だった。SNSの通知だったそれは、物心ついた時からの幼馴染で組んでいるグループからのものだったが、実際それが活用されることは少ないので光來は目を瞬かせる。トーク画面を開くと、ローアングルからの草むらが映っている1枚の写真が上がっていた。それ以外には何もない。元々この写真を上げた幼馴染が携帯を使っている事自体珍しいことではあるのだが、いざ使ったと思ったらこれか、と光來は呆れたように目を細めながら文字をタイプする。
『何してんだお前』
すぐに既読が1つついた。これはきっと1つ年下のもう1人の幼馴染だろうと推測すると、もう少しばかり待ってみる。しかし薄々予想していたものの既読が2になることはなく、光來は溜息を吐きながらテキストを閉じて自室を飛び出した。大広間を抜けて出入り口まで辿り着くと、見慣れた姿がお互いを捉えた。
「かよ!」
「らいくん!」
二人は当たり前のように合流したかと思えば行先をお互い口にしていないにも関わらず同じ方向へと歩き出す。花陽の腕には大き目のブランケットがあった。正に3人は優に包めるような。
「あいっかわらずアイツの行動は訳わかんねぇ」
「えへへ、後でおやつ何を作ろうか考えてたくせに」
「うっせ」
他愛ない話をしながらやってきたのは寮の中庭。その端の方で木陰の下、壁にもたれている男を見つけると、光來と花陽は顔を見合わせて小さく笑った。
「やっぱり寝ちゃってたね」
「もっとマシな呼び出し方は無かったのかよ」
言いながら二人は男―先ほど写真だけを上げた幼馴染を挟むように腰を落とす。花陽がいそいそとブランケットを広げ始めて光來が端を引く。丁度三人分の膝にかかったそれは、もう何度使ったか覚えていなかった。
「良いお天気だよ、お昼寝日和だね」
「ふぁ…、まぁ、そーだな」
先程まで課題と向き合ってた時は眠気なんて全く無かったのに、いざこの場にやって来ると唐突な睡魔が光來を襲った。それは花陽も同様だったらしく、既にうとうとと眠そうに首を揺らす。ぽす、と音を立てて花陽は頬を中心に据えた幼馴染―奈智へと寄せた。静かな寝息が重なり更なる睡魔が光來を襲う。しかし光來ももう、それに抗う気はなかった。ただ何となく、この図は奈智の思惑そのままになっているような気がして、それが悔しくて。光來は壁に頭を預けて瞼を閉じた。
両肩に重みを感じて、奈智はまだ少し重い瞼をゆっくりと上げる。しかしそれ以上は動けなかった。動きを制する両肩の重みは、先ほど眠る前に写真を送りつけた二人の重みだと分かるのは容易なことで、膝に見慣れたブランケットがかかっていることに気付いた奈智は微かに口角を持ち上げた。 今日のおやつはホットケーキでも焼いて貰おう。ゆるりと考えながら、視線だけですやすやと眠る幼馴染をそれぞれ見遣った。
「……おやすみ」
静かに瞼を下ろしても、左右から伝わる温もりは薄れない。
その当たり前に少しだけ嬉しくなりながら、奈智は再び夢の世界へと戻って行った。
( 幼馴染トリオ / Dear 椎歌ちゃん )
□□□
とある極彩絵師と、とある人間パレットのお話。
「あらあらあら、こんにちはイケメンくん。今日はとぉっても酷い雨降りネ?」
「……、彩家さん、」
パレット、はじまりは薄く穏やかな空色からのスタート。
絵師はルージュが引かれた唇をきゅっと持ち上げてパレットの色を確認した。
「猫は水が苦手だから雨の日は大人しく過ごすんですって。イケメンくんは雨ってどぉ?」
「…そうだね、どこか神秘的で嫌いじゃないよ。寧ろ好きかも」
「あら、そぉ」
穏やかな笑みを浮かべたパレットは空色を深める。雨の湿度で湿気た紙はやはり描き辛いのか、絵師は筆を選び直した。
「流石イケメンくんは雨の感じ方も少し風変りなのね。雨といえば…世界で一番綺麗な人の声が聴ける場所って知ってる?相合傘の中なんですって」
「へぇ…、そうなんだ。初めて知ったよ」
「傘も中々粋なお仕事をしてくれるわよネ♡」
絵師は見計らう。パレットの色が変わる瞬間を。
「相合傘って、やっぱりドキドキなシチュエーションよね。恋の切っ掛けになることも多かったりするわ」
「傘を使ったシチュエーションって、お互い意識していなかった筈なのに、っていうシチュエーションが多いのよ。きっと物理的な距離が近くなるからかしらね」
じわじわ、じわり
空色が少しずつ滲んで、そこには白すら乗らない無色が広がって行く。絵師は小さく嗤う。
そして、
「ああそうだ、そういえばさっき野良犬がこの雨にやられて犬じゃなくって濡れ鼠になっていたの。でも思いやりって大事ネ、とある女の子が傘を差し出して、」
筆をパレットに叩き付けた。無色になったパレットに色を乗せるなんて容易いことだった。叩き付けた筆の先からじわじわと滲んでいくのは鮮やかな赤と黄色。澄み渡る空の色とは相反する色たち。
「止めて」
「あらら?どぉしたのイケメンくん、いつものやさしぃ笑顔は迷子なのかしら、怖い顔になってるわぁ」
「弥代のことを好き勝手に話すのはもう止めて」
「好き勝手?あらま心外だわぁ。私は“嘘”はついていないのに」
哀しい表情を作って見せる最中、絵師は高らかに嗤う。パレットは絵師に抵抗する素振りを見せているにも関わらず、筆先の色をどんどん滲ませて広げていくのだ。
(無色って可哀想)
(本人が望まなくても、筆を乗せれば勝手に染まっていくんだから)
(“己”を“染”める?あらあら、嘘はいけないわぁ)
(“己”が“染”められるの間違いなんだから)
「嘘つきは貴方デショ?」
パレットに滲むは屈辱と羞恥の色。はい、出来上がり。
( 己染と彩子ちゃん / Dear 蜜樹ちゃん )
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